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    走れ!メロス2

    • 2011.12.30 Friday
    • 10:42
     セリヌンティウスは落ち着いた調子で、何も言わずにメロスの願いを聞き届けた。
    ただ、セリヌンティウスが言ったのはメロスの靴と服の心配だけだった。

    「服はぼくのやつを貸してやろう。とびきり丈夫で、雨なんかもそれははじくんだよ。靴のほうは、そうだな、履き慣れたものがいい。もし、足をくじいたらことだからね」
    メロスはただうなずいた。セリヌンティウスに縄がうたれた。王はただそれを見ていた。

     その夜から一睡もせずメロスは十里の道を急ぎに急いだ。村に着いたのは丁度昼前だった。よろよろして帰ってくる兄をみて妹は驚いた。

    「なんでもない。町へ大切な用事があるんだ。すぐもどらないといけない。それからは少し時間がかかるから、その前にお前の結婚をすましてしまおうと思うんだ」

    急な事なので、びっくりしたし、妹は頬をあからめた。

    「うれしいかい?。そうか。綺麗な衣装も買ってきたんだ。ほらごらん。ほれ、これから、村の人たちに知らせてくるんだ。結婚式は明日だって。」

    それだけ言って、メロスは泥のように眠った。

     メロスは夜に起きて、花婿の家をたずね、事情があるので結婚式を明日にしてくれとたのんだ。
     驚いたのは花婿のほうで、こちらは何の準備もできていない、せめて、葡萄のとれる季節まで待ってくれという。
     あたりまえだ。メロスはしかし、待てないという。花婿も頑固だった。議論は夜明けまで続いた。花婿は、メロスの尋常でない熱意に負けて、そうしてやっと承知した。結婚式は真昼に行われた。
     式の途中で、やおら空が曇ってきて、ぽつりぽつりと地面をぬらして、とうとう大雨になった。祝宴に参列していた村人は、少し不吉におもった。しかし、めいめい気をひきたてて、狭い家の中、むんむん蒸し暑いのもこらえて、陽気に歌をうたい手をたたいた。
     妹がとてもうれしそうなのを見て、メロスもとても喜んで、あの王との約束を少しの間だけ忘れるぐらいだった。人々はそとの大雨など忘れるぐらい にさわぎ、もりあがった。メロスは楽しくて、うれしいので、一生ここにいたいと思った。内気だけれどかわいい妹と、その婿であるこの堅実そうな新しい義理 の弟と、陽気な村人たちとずっと生涯暮らしていくのだと思った。しかし、明日の夜にはメロスは死ぬのだった。
     メロスは宴もたけなわな頃、一人部屋を出ていって顔をあらった。そうして、自分の顔を見て、雨の音を聴いた。雨がやむまで一眠りしたほうがいいだろうと思った。
     大雨の中、出ていくよりは、小雨になってから走ったほうが早くつくだろうと思った。メロスは、狭いがにぎやかな祝宴の場にまたもどり、花嫁に近寄って言った。

    「俺は明日大切な用事があるのでもう寝るよ。いや、心配しないでいい。いいかい。いもうとよ。おまえの兄の一番嫌いなものは、自分をあざむくこ と、人を疑うことだ。これからも正直だけがとりえのような不器用な人になるんだ。おまえにおれなんかが言えることは、それぐらいだよ。亭主とうまくやるん だぞ。おまえの兄は、たぶん不器用さにかけては誰よりも偉いのだから。おまえもその誇りをもっていろよ。たのんだよ」
     花嫁はにこにこしてうなづいた。しかしうれしくって、ちゃんとは聞いてない様子だった。メロスも力なくわらった。
     メロスはそれから花婿の肩をたたいた。
    「急に結婚だなんてわがままを言ってすまなかったね。前にきみはうちにはなにもありませんがって言ってたね。うちだって、宝と言えば妹と羊ぐらいだ。ほかには無いけれど、できれば俺の弟になったってことを誇ってくれたまえ」
    メロスはばかだった。花婿はとても嬉しそうに、メロスの手をにぎった。メロスは村人達に会釈をして、羊小屋にもぐりこんで眠った。そして短いがとびきり楽しい夢を見たような気がして、めがさめた。


    走れ!メロス 1

    • 2011.12.25 Sunday
    • 09:54
      メロスは激怒した。必ずあの暴君をどうにかしなければならない。羊飼いのメロスには政治は分からない。笛を吹いて羊と遊んで暮らしてきた。羊飼いのメロ スには政治は分からない。分からないが、彼は正直ものだった。邪悪に対しては人一倍敏感で、実直な男だった。しかし、メロスはばかだった。

     彼は買い物をするためにこのシラクサの市に来ていた。妹が結婚するのだ。
     シラクサへ彼は妹の衣装やら祝宴のご馳走やらを買いに来た。メロスは妹と2人暮らしで、父もいなければ母もいない。とても内気な妹だけれど、堅実そうないいわかものと結婚することになっていた。

     メロスは買い物をすませて街をしばらく歩いてから、友人の家に向かった。シラクサで石工をやっているセリヌンティウスだ。セリヌンティウスは幼なじみで、メロスのだいのともだちだ。しばらく会っていない。
     セリヌンティウスのところへ向かいながら、歩いているうちにメロスは、まちの様子を怪しく思った。

     まちはひっそりしていた。

     夜になったのだからまちがひっそりしているのはあたりまえだ。しかし、暗いのは夜のせいばかりではないようだ。まちぜんたいが、なぜか異様にさ びしく。羊を追いかけてのんきに暮らすメロスも、不安になるぐらいだった。昔セリヌンティウスをたずねたときはこうではなかった。夜でもみなが歌をうたっ て、まちはにぎやかだった。メロスもあわてて歌った。それがいまではひっそりとしている。

     メロスは街で見かけた若者になにがあったのかをたずねた。
     若者はただ首をふるばかりだった。

     メロスは街で見かけた老人になにがあったのかたずねた。
     老人はなにも答えなかった。
     メロスは今度は老人のからだをゆすぶってたずねた。
     老人は小さな、かぼそい声で言った。
    「王様は、人を殺すのです。」
    「なぜ?」
    「みなが悪い心を抱いている、というのです。」
    「なぜだ?」
    「わかりません。誰もそんな、悪い心をもってはいませんのに」
    メロスは黙った。そして言った。
    「たくさんの人を殺したのか?」
     老人は答えた。はい、はじめは王様の妹婿さまを。それから、ご自身のお世継ぎを、それから、妹さまその人を。それから、妹様のお子さまを。それから、皇后様、それから賢臣のアキレス様を。みな、悪い心を抱いていると、殺してしまったのです。

    メロスは内心びっくりしたが、すぐに悪い冗談とも思った。つづけざま、メロスは聞いた。
    「おどろいた。国王は乱心だな!」
     老人は答えた。いいえ、乱心ではないのです。人は、信じることができない、というのです。すべての人間は裏切る、というのです。乱心ではないの です。ただ、もう、人は、信じることができない、というのです。家来を信じるために肉親を人質に出せと言うのです。命令を拒めば十字架にかけられて殺され るのです。差し出せばまたそしてもう疑うのです。今日はそれで、
    「六人も殺されたのです。」
    メロスはびっくりして。声を出した。
    「あきれたな!そんな王を、生かしてはおけない」
     メロスは激怒した。メロスはばかだった。買い物ぶくろを背負ったままで、ずかずか城に入っていって王様にあわせろと言う。すぐにメロスは門番につかまって運悪く短剣を持っていたので、それで、さわぎが大きくなった。

    メロスは次の日の朝に王の前に引き出された。

    王は言った。
    「この短刀で、お前は何をするつもりだったのか。お前は答えなければならない」

    暴君ディオニスは静かに言った。メロスは何もするつもりもなかったぞ、と思った。しかし、メロスはばかだった。

    「この街を暴君から救うのだ」
    「おまえがか?」

    「しかたのないやつだな」
    王は、言った。さっきよりはむしろ優しい顔だった。しかしとりわけ哀しい顔をしていた。
    「仕方のないやつだ。おまえなどに、おれの孤独がわかるか?」
    「わかるわけがない」
    メロスは言った。
    「いいか。王よ。人の心を疑うことは、なによりも恥ずべき悪徳だ。王よ。民はなにもしていないし、なにもするつもりもない。なのに、なぜその民を疑うことができるのだろう?」
    王は、言った。今度は冷たい顔だった。
    「疑えと教えてくれたのはお前たちだ。人間の心はあてにはならない。とどのつまり人間は自分のことしか考えることができない。自分の命、自分の財 産、自分のくらしのことだけしか考えることができない。そのほかのことはいつもおろそかにする。いや、考えることができないのだ。優しさのかけらもない。 自分以外のなにものをも見ようとはしない」
     王は少し落ち着いて、ひとつため息をついた。
    「わたしだって、平和をのぞんでいるのだ」
     メロスはあきれた。
    「ばかばかしい!何のための平和だ?保身か?自分の地位を守るためのか?」
    「王よ、お前は恐れている。罪の無い人を殺して、なにが平和だ。疑うまえにお前はどれだけの人間を信じた?疑うまえにおまえはどれだけ騙されたのだ?優しさと言う前におまえはどれだけ人に優しくしたんだ?」
    メロスは言った。メロスはばかだった。

    「だまれ!」
    王は言った。
    「黙れ、下賤の者よ。苦悩を知らないものよ。どれだけ、とお前は言ったな?そうだ、どれだけか。そうだ、口ではいくらでも清らかなことは言えるだ ろう。言葉はばかなお前をそれだけ立派に見せるだろう。どれだけ、とお前は言ったな。それじゃお前は何をして生きてきたのだ?なにを考え、何を悩んだ?羊 を追いかけることで何を考えた?
    わたしには、人の奥底が見えてならない。人は必ず間違う。そうと分かっていても間違う。人の心はそのじつ恐ろしい魔物だ。人はすぐに魅せられる、 引き寄せられる。縄をうたれた、自分のすがたを見るがいい。お前は何をしようとしたのだ?お前は、間違えたのだ。その短刀でお前は何をしようとしたのだ? それが、お前の優しさか?それが答えか?」
    王は短刀をからと投げ捨てた。メロスは黙っていた。王は言った。
    「死ぬ前に何か言いたいことがないか?」

    「そんなものはない。ただ」
    とメロスは言った。みなは黙っていた。

    「ただ。もし、あなたがおれに情けをかけてくれるつもりなら、処刑までに三日の有余をあたえてください。俺にはたった一人の妹がいるのだ。その妹は、明日結婚する。このよのなかにひとりだけいる血をわけた兄妹だ。三日のうちに、結婚をあげさせ、おれは必ず帰ってきます。」

    「ばかな!」
    王はカラカラと笑った。いくらかの家来がそれにつられた。実際、メロスはばかだった。

    「どんでもない嘘を言う。逃がした小鳥が、ひとりで檻にまたもどる!」
    「そうです。もどってくるのです」

    メロスは必死で言った。心がひとりでにしゃべっていた。

    「おれは約束を守ります。三日間だけください。妹が、おれの帰りをまっているんだ。そんなにおれを笑うなら。いいだろう。この街にセリヌンティウ スという男がいる。私の無二の親友だ。彼を、人質としてここに置きましょう。もしおれが帰ってこないなら、その友人を絞め殺せばいい。俺はかならず帰って きます。」

     王は、笑った。このメロスと言う男はなんという底なしのばかなのだろう。この男は実際もはや帰ってはこれないのだ。なのに生意気なことを言う。 なんというばかだろう。この男は帰ってはこれない。そうして身代わりの男が殺されるのだ。世の中の、正直ものとかいう輩はその裏切りを知るだろう。この男 は、自分がなにを支払おうとしているのか、まるで分かってはいないのだ。この男はなんというばかだろう。

     王は、とりわけ優しい顔をつくって彼にいった。その声は静かで、川のせせらぎのように優しかった。
    「よろしい。願いを、聞いたよ。その身代わりを呼びなさい。三日目の日没までに、お前は帰ってくるのだろう。そして、友人は助かるだろうしお前は死ぬるだろう。かわいい子だ。メロス。」


    ----なら、少し遅れてきたらいい。そうしたら、お前の罪はなしにしてやるよ。少し遅れて、そうしてここで泣くのだよ。そうしたら、お前の罪はすべて洗い流されるだろうよ。だから、少し遅れておいで。


    メロスの顔はゆがんだ。王はさらに続けた。その顔はレンガのようだった。

    「いいかい?お前は遅れてくるさだめなんだよ。いいか。おまえの未来はどのみち一つだけなんだよ。いいか、お前は帰ってこない。いや、帰ってこれない、さだめなんだよ」

    そうして、メロスは城を出た。


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