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    決断する政治

    • 2012.07.15 Sunday
    • 01:31
     決断する政治
    Seibun Satow
    Jul, 14. 2012

    「われわれは、総統の高い意志についていくだけでいい」。
    マルティン・ハイデガー『国家社会主義教育』

     ナチズムはまさに決断する政治である。フライブルク大学総長マルティン・ハイデガーは、1933年、決断する政治であるがゆえに、ナチスに支持を表明し、教職員や学生にもその決断を求めている。

     ドイツの教職員諸君、ドイツ民族共同体の同胞諸君。 ドイツ民族はいま、党首に一票を投じるように呼びかけられている。ただし党首は民族から何かをもらおうとしているのではない。そうではなくてむしろ、民族の全体がその本来の在りようをしたいと願うか、それともそうしたいと思わないのかという至高の決断をおのがじし下すことのできる直接の機会を、民族に与えてくれているのである。民族が明日選びとろうとしているのは他でもない、自分自身の未来なのである。
     (『アドルフ・ヒトラーと国家社会主義体制を支持する演説』)

     ワイマール共和国は急激なインフレと証券市場の崩壊、激化する政治闘争など困難な状況に陥る。32年7月の総選挙で、行動力と演説力を売り物にした42歳の元陸軍伍長を党首に冠する国家社会主義ドイツ労働者党が第一党に躍進、翌年の1月、アドルフ・ヒトラーを首班とする内閣が発足する。ナチスは憲法で保障された基本的人権を停止したのを皮切りに、数々の権威主義・人種差別政策を実施し、民主主義体制を崩壊させる。

     『存在と時間』により国際的な名声を得ていたマルティン・ハイデガーは、32年末、フライブルク大学総長選挙に立候補し、翌年の4月に選出される。断固として決断と行動によって可能性をつかむことを主著で展開した彼は、同年のメーデー、ナチスに公式入党している。新総長は大学の民主的なシステムを解体、哲学に基礎を置くカリキュラム改革を提唱する。さらに、公開講演では、ナチスへの忠誠を呼びかけ、強力なリーダーシップに率いられたドイツ国民のアイデンティティの回復を熱狂的に叫んでいる。

     ドイツ国民は自らの未来を選択する決断の時に来ている。アドルフ・ヒトラーは決断する指導者である。その選択は自由主義的な投票行動ではない。拍手喝采によって決断を表明することである。その時、「民族の全体」が「その本来の在りよう」を「自分自身の未来」として選びとる。ドイツ国民がそのような意志を示すなら、恒久さと偉大さが約束される。

     ハイデッガーは反ユダヤ計画には賛同していなかったと見られるが、それを除くと、ナチズムとの親和性が高い。ハイデガーは、同時代的な気分をつかみ、奥深いことを語っていると思わせ、スターとなれる個性的な文体を持った思想家である。彼のナチス賛美の文章はその本質をよく物語っている。ナチズムは、右からの全体主義であるファシズムの極限形態であり、それを知るためにも、今後ともハイデガーの著作は読まれねばならない。

     全体主義は第一次世界大戦という総力戦の経験なしにあり得ない。戦場は固着し、消耗戦・補給戦・生産戦・封鎖戦となり、全国民の総力が戦争の結果を左右する。ドイツは、中でも、官民協力が促進されている。陸軍省に設けられた戦時原料局の監督下、各産業ごとに原料の生産・調達を管理する国策会社が設立される。この戦時原料企業の母体は既存の利益団体・シンジケートであり、国家統制と民間の自主管理を組み入れるシステムである。公的統制に民間を組みこむ手法は工業部門にとどまらず、農業や商業にも及んでいる。第一次世界大戦前まで欧州では自由主義がスタンダードであり、政治と経済を分離していたが、政経混合システムの経験は戦後にも影響を与えることになる。

     機関銃や戦車、毒ガス、飛行機などが新たに戦場に投入され、兵士たちは塹壕の中で過酷な体験を強いられる。こうした経験を共有する復員兵の間には英雄崇拝と連帯感が生まれている。動員解除されても、彼らの中には市民生活になじめないものも少なくない。アドルフ・ヒトラーもその一人である。

     死線から戻ってみれば、議会は政局に明け暮れて、企業は拝金主義にまみれ、人々は消費にうつつを抜かしている。みんな自分勝手なことばかりしている。軍は上意下達の秩序立った組織である。彼らは部隊全体で腕時計の時間を合わせ、上官の決断した命令に従い、祖国のために、戦友と共に突撃する。そんな自分たちこそが真に国家の未来を考えている。堕落した社会の根性を叩き直さねばならない。ファシズムはこういった復員兵の反自由主義・反個人主義・反合理主義のイデオロギーである。

     第一次世界大戦後、大衆の政治参加が一層進む。元軍人の右翼勢力は社会不安や政治的停滞、経済的混乱を欧州のスタンダードの議会制民主主義や自由主義のせいにし、それを打倒し新たな体制の構築を希求する。中でも、敗戦国の場合、敗北の責任を国内における裏切り者に見出す動きが見られる。不純物を極度に嫌う潔癖性がここから生じる。彼らはあらゆるメディアを駆使した新たな動員を図り、非合理性や美意識に訴え、感情の共同体の形成をもくろむ。理性を超えた崇高なるもの、偉大なるもの、神聖なるものへの歓喜と熱狂を通じて民族の統合を目指す。19世紀から国民国家は国民主義としてのナショナリズムに立脚しているが、ファシズムは民族主義や人種主義に依拠する。民族や人種は主観的であり、それを共有するものに適用される。その民族の大義を具現する指導者に率いられたファシズムは、その主観性を共通理解する彼らにとって、真の民主主義である。

     ナチズムはこうしたファシズムの急進主義であり、議会制民主主義と自由主義を完全に否定する。共産主義も両者を批判したが、ナチズムとは異なっている。ファシズムが右からの全体主義であるなら、スターリニズムは左からの全体主義である。

     古典的な自由主義は政治と経済を分離する。それに対し、共産主義は政治と経済を一体化させ、資本主義と別の体制を構築しようとする。市場経済が利己的動機を重要な原動力としているのに対し、共産主義は階級闘争にそれを求める。労働者階級が資本家階級から権力を奪取し、その前衛党の指導の下、官僚機構が経済を計画・統制する。

     一方、ナチズムにおいて歴史の原動力は政治的決断と頑張りである。決断して頑張ることが経済問題を解決するという反合理主義は他の政治思想には見られない。資本主義も共産主義も乗り越えなければならない。欲望にも階級闘争に動因を見出さないので、すべての階層に根拠のない経済的成果を約束し、それらを民族の名の下に統合する。弱者は頑張れない劣等として排除される。滅私奉公が説かれて自由は極限まで抑制、利害対立・調整の場である代議政治も否定、政治動員が体制に組みこまれる。

     ナチズムでは、経済は政治に従属しなければならない。歴史的使命に身を捧げ、国家のために額に汗して働くことこそ尊い。目指すは生産至上主義の自給自足経済である。英雄的な経営者・企業家の賛美もここから派生する。ナチスがケインズ主義を実践したという意見は正しくない。ケインズ主義の需要が供給を生み出すという前提とは逆に、ナチスは生産偏重の禁欲主義を信じていたからである。しかも、戦争準備や戦時動員に熱中する彼らの経済運営や政策の優先順位は著しく合理性を欠いている。

     われわれを脅かすのは政治的敵対者である彼ら、すなわち誹アーリア人である。われらの政治的・経済的・社会的な伝統・制度・文化などは血と地を通じて共有されている。その基準に照らしてそぐわないものは非アーリア人である。崇高で、偉大、神聖なものがその穢れた連中の危機にさらされている。この人種主義は国民主義とは違う。極めて主観的であるからこそ、内部に基準を設けられ、外部との相違が認知できる。ナチスはこうした人種主義に駆られて非アーリア人の絶滅計画を実行、さらに対外戦争を仕掛け、19世紀以来の国民国家体制に基づく欧州の秩序を破壊しようと企てる。

     市民生活になじめなかった復員兵のイデオロギーであるファシズムはナチズムとして、最終的に、社会を戦争状態に変えることに帰結する。しかも、カタストロフを招いても、この思想には反省や後悔の契機も持たない。滅亡の美学だと言ってもよい。決断する政治においてそれを尊厳ある運命として受け入れることも正当化するからである。

     経済が混乱、政治が混迷し、社会不安が増大すると、決められることをメディアを始め世論も求めたくなる。けれども、そんな時には、「決断する政治」の経験を思い出した方がよい。それは誰かが決めたことに追随する態度を選んだ滅亡の美学にすぎない。

     この未曾有の意思をもった人、われらが総統アドルフ・ヒトラーの勝利に──「ジークハイル」三唱!
    (ハイデガー『国家社会主義教育』)
    〈了〉
    参照文献
    平島健司他、『改訂版ヨーロッパ政治史』、放送大学教育振興会、2010年
    マルティン・ハイデガー、「アドルフ・ヒトラーと国家社会主義体制を支持する演説」、石光泰夫訳、『現代思想』1989年7月号

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