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    車輪の再発明

    • 2012.07.25 Wednesday
    • 06:51
     車輪の再発明
    Seibun Satow
    Jul, 24. 2012

    「うん、これでよし。へたばらないようにするんだよ。さもないと車輪の下に圧しつぶされてしまうよ」。
    ヘルマン・ヘッセ『車輪の下』

     IT業界で「車輪の再発明(Reinventing the Wheel)」という慣用句がしばしば用いられる。これは、すでに広く定着した技術や解決法を認知しないまま、あるいは無視して、同様のものを一から再び発明することを意味する。新たな付加価値のないソフトをコストをかけて開発することは無駄でしかない。そんなものは既存のコードを利用すればいい。諸般の事情から車輪の再発明は起きてしまうが、この慣用句には否定的なニュアンスがある。

     けれども、教育学の見地からは、車輪の再発明は非常に有意義な方法である。これを採り入れたのがジョン・デューイの「進歩主義教育(Progressive Education)」である。

     デューイは、1896年、シカゴ大学に新しい教育理論を実践する実験小学校を創設する。その模様を『学校と社会』(1899)という報告書で発表している。当時のアメリカは世界最大の工業国へと発展し、そうした急速な近代化に伴い、社会が激変している。デューイは、こういった時代背景の下、学校に「新しい社会」を求める。そこは「民主主義の萌芽」を育てる「新しい共同体」である。デューイ・スクールは8年間で閉鎖を余儀なくされたが、体験学習を始め、20世紀の教育に多大な影響を与えている。

     現代社会では、家庭生活や地域活動、産業の労働、大学の知的探求などそれぞれがバラバラになりつつある。それらを連動する多様な経験を組織化する必要があるが、その機能を果たすのが学校である。民主主義社会を実現する個人と共同体を育てる基礎となるのが学校であり、子どもの個性的・探究的・表現的な活動がそれをもたらす。従来のカリキュラムは教師のためにあったが、「児童中心主義(Child-Centered Education)」へと変更しなければならない。

     そう考えたデューイは、座学中心だった教育現場に、創造的な「手仕事(Occupation)」を通じた知的探求を導入する。かつては衣服もろうそくも家庭でつくっていたから、人々はそういった知識も技術も有している。既存・既製のものを利用するだけでは不十分である。その技術や知識が秘めている意味を理解する必要がある。すでに定着したものをあえて一からつくり、その結果に至る過程を頭だけでなく、身体でも経験する。暗黙知の対象を明示化し、過程による想像力の向上が促される。対象は孤立してはおらず、知識のネットワークの中にあることが認識される。その時、理解は深くかつ広くなる。再発明の意義は、デューイにおいて、このように積極的に認められる。

     進歩主義教育を今日の文脈で読み替えると、「リテラシー教育」になろう。各種の技術や知識が専門化・細分化・高度化しているため、事物や事柄がブラックボックス化している。専門家であっても、自分の領域から離れると、チンプンカンプンである。近代の理念は自由で平等な個人が自立して考えることだが、実際には、依存が強まっている。民主主義にとっても、それは危うい。よりよい社会を築くためには、市民のエンパワメントが不可欠である。完全に自立した思考は、もちろん、あり得ない。大切なのは知識がネットワークを構成していて、自らを含めた思考はその関係の中にあることを認識することだ。リテラシーは知識のネットワークの文法であり、その学習が現代では必要とされている。

     と同時に、専門家にとってもリテラシーの確認は自らを相対化して、自分の認識を見直す契機も与えてくれる。このことは複雑に考えなくてもよい。日本語のネイティブ・スピーカーは母語を自分の判断だけで使えている。けれども、その理由を説明できないことが少なくない。もし理屈が文法からわかったなら、それを発展的に用いることができるだろう。暗黙知を明示化することで、認識の発展がもたらされる。

     車輪の再発明は暗黙知の明示化による認識の発展とも言い換えられる。それはリテラシーの向上のために効果的であり、確かに、プログレッシブだ。車輪の再発明に挑むものは、それがないのだから、車輪の下で圧しつぶされることはない。
    〈了〉
    参照文献
    佐藤学、『改訂版教育の方法』、放送大学教育振興会、2004年
    ヘルマン・ヘッセ、『車輪の下』、高橋健二訳、新潮文庫、1951年

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